2008年11月18日

マンチェスター・Uで万能長身FWのベルバトフがいっこうに機能しない理由



・アメリカ鉄道会社が犯した致命的ミス

 アメリカの鉄道会社は、1869年の大陸横断鉄道の完成を機に20世紀初頭まで繁栄期を謳歌していた。大陸横断鉄道完成以前のアメリカは、東海岸と西海岸を結ぶ大規模輸送手段が、パナマ運河を通る大型貨物船以外にはなく、陸上からは小規模の馬車輸送がせいぜいであった。また、のちのライバルとなる自動車も、当時は金持ちの娯楽品に過ぎず、航空機も1903年にライト兄弟が初飛行に成功したばかりだった。

 絶頂期にあるものは、過ちを犯しやすい。アメリカの鉄道会社もご多分にもれず、成功に浮かれて取り返しのつかないミスを犯してしまった。彼らは自分たちの業界を運送業界ではなく、鉄道業界だと思い込んでしまったのである。そのため、他の鉄道会社を買収しさえすれば、ライバルは居なくなり、利益を独り占めできるものと誤解してしまったのである。

 この誤解が致命的な失策をまねく。第一次世界大戦後に道路網が整備されたことによって、自動車が大衆にまで普及し、アメリカの交通事情は一変する。当時のアメリカの鉄道会社は、独占状態にあぐらをかき、サービスの質を低下させ、乗客から反感を買っていた。特に問題だったのは、料金の高い一等客を優遇し、料金は安かったが客数の多かった一般乗客を冷遇してしまったことである。そうしたことから一般乗客は、鉄道輸送から便利の良いバス輸送へ一斉に乗り替えてしまた。これにより絶頂期を迎えていた市街地の電気鉄道網は、バス網との競争に敗れて壊滅し、さらには長距離鉄道輸送網さえも、技術進歩によって大型化した航空機との激しい競争のすえ衰退し、鉄道業界そのものが凋落の一途をたどってしまった。

 鉄道会社が自分たちの業界を運送業界と正しく認識し、早めに手を打っていたならば、これほど没落することはなかったはずである。ただし、このように自分の位置づけを見失う例は珍しくない。マンチェスター・ユナイテッドの万能長身FWディミタール・ベルバトフの獲得がいい例である。


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・ベルバトフはセンターフォワードではない

 昨シーズンのマンチェスター・Uは、スピードを持ち味とするウェイン・ルーニーとカルロス・テベスが2トップを組んでいた。彼らは当初、同じタイプのFWと思われていた。「同じタイプの2トップは機能しない、だからルーニーとテベスも機能しないに違いない」とシーズン開幕までは評論家などから批判を受けていた。けれども彼らは同タイプのFWなどではなかった。ルーニーはセカンドトップ、テベスはセンターフォワードだった。

 昨シーズン、ルーニーとテベスの2トップは、ネガティブな前評判を覆し、得点王となったクリスティアーノ・ロナウドらと共に「プレミアリーグ最強のアタッキングユニット」と評されるまでの破壊的な攻撃力を見せた。一方で弱点も指摘されていた。前線のパワー不足である。ルーニーの身長は179センチ、テベスは168センチ、190センチ超の大男が揃うプレミアリーグのセンターバックとやり合うには高さがどうにも足りない。そこでマンチェスター・Uのアレックス・ファーガソン監督は、トッテナム・ホットスパーズから189センチの大型FWディミタール・ベルバトフを獲得した。

 パワー・スピード・テクニックと三拍子そろった万能大型FWのベルバトフとルーニーにペアを組ませれば、あらゆる局面に対応できる完璧な2トップが生まれるに違いないとファーガソン監督は考えただろう。だが、ファーガソン監督の思い通りには事は進まなかった。実はベルバトフはセンターフォワードではなく、ルーニーと競合するセカンドトップ型のFWだったのだ。


・センターフォワードとセカンドトップの違い


ウェイン・ルーニー


カルロス・テベス


ディミタール・ベルバトフ


ロビー・キーン

 マンチェスター・Uの3人に加えて昨シーズンまでトッテナムでベルバトフとコンビを組んでいたロビー・キーンのプレー動画を見ていただきたい。ルーニーとベルバトフはセカンドトップ、R・キーンはセンターフォワード、テベスはセンターフォワードとセカンドトップの両方をこなす万能型に分類されるFWである。

 センターフォワードは、一般に長身でパワフルなFWのことだと思われている。けれども、そればかりがセンターフォワードではない。佐藤寿人のようにDFのマークを外す動きに長けた選手もセンターフォワードにカテゴライズされる。敵ゴールに最も近い位置にポジションを取るセンターフォワードは、必然的に相手のDFと高い頻度で接触することになる。そのためセンターフォワードは、DFのフィジカルコンタクトに負けない体格が要求されがちだ。けれども、DFへの対抗手段はパワーだけではない。テベスやR・キーンといった軽量級のセンターフォワードでも、スピードと駆け引きの巧みさを武器にDFとの接近戦にも十分に対応できるのである。

 それに対してルーニーとベルバトフは明らかにDFとの接近戦を苦手としているセカンドトップ型のフォワードである。長年、大型FWのやや後方でプレーし続けてきたルーニーがセカンドトップなのは当然としても、長身のベルバトフがセカンドトップと聞くと、読者諸兄は不思議に思うかもしれない。しかし、ベルバトフは長身ということを除けば明らかにセカンドトップとしての特性を備えている。

 テクニックとスピードを兼ね備えており、パスセンスに優れ、スペースに飛び込むセンスもある。これは完全にセカンドトップのキャラクターである。しかも大柄な体格の割りにはDFを背負うプレーを苦手としており、足元にボールを受けに頻繁に中盤まで下がっていこうとするなど、ゴール前で敵味方双方からターゲットとなることが求められるセンターフォワードの適性を明らか欠いている。

 ルーニーとベルバトフのセカンドトップ同士の2トップは機能しなかった。なぜセカンドトップ同士の2トップだと機能しにくいかというと、それはセンターフォワードがいなくては苦手な相手DFとの接近戦をこなさなくてはならなくなってしまうためである。センターフォワードがいたからこそ、DFと距離を取ってプレーすることができる。センターフォワードがいなくては、距離を取ろうと思っても相手のDFがラインを押し上げて追いかけてきてしまう。センターフォワードとセカンドトップは太陽と月の関係に似ている。セカンドトップはオトリとなって敵味方の注目を集めるテベスやR・キーンなどのセンターフォワードという太陽がいなければ月のように輝けないのだ。

 ちなみに現在マンチェスター・Uは、パクチソンをセンターフォワード代わりに起用するという奇策でしのごうとしている。攻撃の局面でパクチソンをサイドからゴール中央へ走り込ませることによって相手DFをけん制し、ルーニーとベルバトフがDFと距離を取ってプレーできる様にしようというわけだ。

 素直にテベスを軸してルーニーかベルバトフのどちらか片方を起用すればよいではないかと思う人もいるかもしれない。けれどもそれは、経営面・戦術面双方から出来ない理由がある。約3050万ポンド(当時約60億円)を費やして獲得したベルバトフをベンチというのがまずあり得ない。アメリカ人のオーナーに3050万ポンドをドブに捨てましたと言っているようなものだ。かといってルーニーを外すとハーグリーブスの故障で守備的MFがいなくなり、攻撃的な選手以外残っていない中盤のディフェンスに問題が起きてしまう。アンデルソン、スコールズといった攻撃的になり過ぎる中盤に代わり、「プレミアリーグで一番守備をするFW」と呼ばれるルーニーが献身的に走り回ることによって、なんとか攻守のバランスを取っているのだ。守備をサボることで有名なベルバトフでは、バランスが崩れて守備がズタズタになってしまう。イングランドのエースストライカーといった立場から考えても、ルーニーを外すという選択肢は選べない。アレックス・ファーガソン監督の苦悩はいかばかりだろうか。


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posted by hume at 20:12| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
久保、平繁、清水、丸谷はどこに属にしますかね?

あと播戸、前田遼一、平山、興梠、岡崎、李、森本も個人的によくわかりません・・・。
お暇な時にでもこの図々しい質問にお返事いただけないでしょうか・・・。
Posted by サポ at 2008年11月19日 00:31
はじめまして。

ディミに関しての鋭い意見ですね。
そう、彼はトップ下のタイプなのです。純粋なCFではない・・・・・。

ただ今のユナイテッドの状態と彼のタイプはほとんど関係ないです。

そうそうウチの選手選考はガファの自由なんでエースやら金が掛かったやらはむしろ言い訳にしかなならんですよ。ルーニーを出すのはイングランドの為。何て有り得ません(笑)ガファを何人だと思ってるんです?

今のユナイテッドの問題はウィングの不出来が一番。それから日本に行かなくてはならないのでコンディションを上げ切れないのが2つ目。ディミの事で問題といえば彼のメンタルくらいでそう大した事じゃないのです。
Posted by BR at 2008年11月19日 01:00
>サポさん
久保と丸谷はセカンドトップ、平繁と清水は両方です。

播戸、前田、平山はセンターフォワード、興梠、岡崎、李はセカンドトップです。
森本はちょっとよくわかりません・・・FWに向いてないのかも。

>BRさん
チームに歪みをもたらしているのは、前線・中盤の中央の2か所です。
ウイングの問題はあくまでも副次的なものにすぎません。
それはパクチソンの通常ではありえないポジショニングを見れば分かることです。
Posted by hume at 2008年11月19日 22:35
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