2009年07月11日

オシムがセンターバックにボランチの選手を起用した本当の理由

・決定力不足の原因はCBにあり

 世間一般では「日本代表が決定力不足に陥っているのは優秀なFWがいないためだ」と思われているようだ。確かに一理ある。

 Jリーグ得点ランキングの上位は、外国籍選手にほぼ独占されており、7月11日現在でトップ12入りしている日本人選手は、たったの4人にすぎない。そのうち日本代表に選出されているのは興梠慎三と岡崎慎司(清水)の2人だけである。これでは「FWの能力不足がゴールを奪えない原因」と考える人がいても仕方がない。

 しかし一方で、それとはまったく反対の意見もある。元横浜Fマリノス監督のハビエル・アスカルゴルタは「日本代表が決定力不足なのは優れたFWがいないためではない。優れたCBがいないためだ。」と述べている。


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・消化不良な全員攻撃

 日本国内ではユースレベルでも浸透している全員守備に対して、全員攻撃はプロレベルでも中途半端な形でしか理解されていない。

 実践的なプレッシング戦術理論が日本に紹介されたのは、1995年8月に出版された瀧井敏郎著「ワールドサッカーの戦術」が最初だろう。それから約14年の歳月が過ぎ、イタリアへ遠征した日本の高校生チームが、現地のコーチを驚嘆させるほど成熟したプレッシング・サッカーを披露するなど、全員守備は日本サッカー界へ着実に根付いている。

 それに対して全員攻撃は、最近ようやく認知され始めたといった段階だ。大半のCBはフィードを蹴るだけで満足してしまい、パスを繋いで攻撃を組み立てようという意欲を持つ者は、ごく一握りの選手に過ぎない。けれどもここに日本代表の得点力不足の原因が潜んでいる。


・甘やかされるCBと燃え尽きるFW

 日本ではCBは温室育ちな半面、FWが馬車馬のようにこき使われるのが当たり前のようになっている。積極的なチェイシングで守備陣を助け、プレッシャーを掛けられると遠くにボールを蹴り飛すしか能がないCBに代わり、中盤まで下がって攻撃の組み立てをサポートし、それらを完ぺきにこなした上でさらに前線で得点に絡むプレーを義務のように言われている。

 これは明らかに過重労働だ。ディフェンスにゲームメークにと走りまわったあとでは、FWにゴールを奪う余力など残っているわけがない。


・日本人にも優秀なFWはいるのだが

 得点数ランキング上位の日本人FW共通の特徴は、パスを引き出す動きに長けているという点である。茂木弘人(神戸)や佐藤寿人(広島)は、外国人FWのように圧倒的な個人技でゴールをこじ開けるといったまねは期待出来ないが、パスの出し手と呼吸が合いさえすればいくらでも決定機を得られるだろう。

 けれども最終ラインからロングフィードばかりでは、彼らも持ち味を生かしようがない。彼らは周囲のサポートを得て初めて輝けるタイプのFWだ。チョンテセ(川崎)やダヴィ(名古屋)のように、持ち前のパワーとスピードで単独突破できるFWならばともかく、CBに「あとは任せた」と言わんばかりのロングボールを放り込まれても、準備万端で待ち構えるディフェンス陣に囲まれた状態では、彼らも途方に暮れるばかりだろう。


・最先端を突き進む広島

 まずは以下のランキング表を観ていただきたい。

第1位:広島(26/92.9%)
第2位:横浜FM(21/100%)
第3位:FC東京(20/90.9%)
第4位:鹿島(20/80.0%)
第5位:柏(15/78.9%)
第6位:神戸(15/75.0%)
第7位:清水(15/71.4%)
第8位:大宮(15/68.2%)
第9位:千葉(14/87.5%)
第10位:山形(14/77.8%)
第11位:新潟(12/42.9%)
第12位:浦和(11/50%)
第13位:G大阪(11/37.9%)
第14位:磐田(10/43.5%)
第15位:京都(8/44.4%)
第16位:名古屋(8/42.1%)
第17位:大分(7/63.6%)
第18位:川崎(7/25.0%)

 これは各チームの総得点(第16節終了時)から外国籍選手(在日枠も含む)の得点数を引いた数字を順位づけしたものだ。同数の場合は、日本人選手の得点数の割合が高いチームを上位としている。オウンゴールもカウントしているため正確なものではないが、各チームの日本人選手の得点数をランキング化したものと考えてよい。

 ご覧のとおり攻撃的3バックを擁するサンフレッチェ広島が、2位の横浜FMに5点差をつけ、ダントツの結果を残している。総得点数でトップを争うG大阪、名古屋、川崎の3チームには倍以上の大差をつけたことからも、その突出ぶりがわかるだろう。

 このランキング表からわかることは3つある。

 ひとつめは日本人のゴールの割合が高いチームは得点力不足に悩まされる傾向があるという点だ。2位の横浜FMはゴール総数で10位、3位のFC東京も7位に過ぎない。

 ふたつめは強力な外国人アタッカーの獲得がゴール数アップの最短の道だという点だ。13位のG大阪、16位の名古屋、18位の川崎が総ゴール数でトップ4に入っているという事実からもうかがえるだろう。

 そして最後は、広島のように攻撃センスに優れたCBを起用すれば、外国人アタッカーに依存しなくてもゴールを量産できるという点だ。最終ラインがゲームメークに参加できるなら、FWの負担は減り、ゴール前にボールが供給されるまで体力を温存することができる。そうなれば必然的にフィニッシュの精度も上がる。決定力不足もある程度は解消されるだろう。


・阿部の起用法にみるオシムの考え

 オシムが千葉では阿部勇樹をボランチで起用していたにもかかわらず、日本代表ではCBで起用していた点を疑問視している人がいた。だが、これはオシムにすれば何の矛盾もない。オシムが率いたチームが、日本代表ではなくクラブチームだったならば、オシムもジェフ千葉にマリオ・ハースを呼んだように手っ取り早く外国人アタッカーを補強して攻撃力UPを図り、DFラインには阿部のようなボランチの選手ではなく、水本裕貴(京都)のような本職のストッパーをもちいたことだろう。

 しかし、オシムは日本代表チームの監督だった。外国人アタッカーの帰化は容易な話ではない。いま現在はG大阪のレアンドロの帰化という話も出ているが、当時は日本語もろくに話せないジュニーニョの帰化話くらいしかなかった。だからこそオシムは、決定力不足解消のため、岩政のような屈強の長身CBではなく、阿部や今野泰幸などのボランチの選手を最終ラインに抜擢したのだろう。

 例え巻誠一郎(千葉)や田代有三(鹿島)といった日本屈指のストロングヘッダーを前線に取り立てたとしても、190センチ超級のCBとのマッチアップが予想されるW杯本大会では、彼らが通用する可能性などほとんどない。世界の強豪と渡り合うためには、攻撃的CBの登用が必要不可欠なのである。


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posted by hume at 12:17| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、おはようございます。

自分も当時、オシムのこの起用法が疑問でして考えた末に行き着いたのが管理人さんと同じようなことでした。
バルサのマルケスみたいにしたいのかなー的な。

先日のナビスコ(代表召集期間中)で浦和のフィンケ監督が、本職のストッパーが起用できる状態なのにもかかわらず、右CBに山田暢を起用したのも同じ考えなのでしょうか。
Posted by NARI at 2009年07月12日 05:10
とてもおもしろいと思いました。私は森重真人に期待してます。
Posted by 州 at 2009年07月12日 12:10
基本的な話に異論はないのですが

>総得点数でトップを争うG大阪、名古屋、川崎の3チームには倍以上の大差をつけたことからも、その突出ぶりがわかるだろう。

G大阪、新潟、川崎、の間違い?
Posted by 酩酊 at 2009年07月13日 13:03
日本は、まだ全員攻撃が中途半端とのことで、すごい興味深い内容でした。

浦和でも山田暢をCBで起用したようですが、モンティオでも、ケガ人が多かったとはいえ、165cmの宮本卓也を2枚のCBの一人として起用しました。

”甘やかされるCBと燃え尽きるFW”というのも興味深かったです。
槇野のように背が高くて、なおかつ積極的な攻撃参加できる逸材がどんどん出てくると、日本サッカーにとって良いのかも知れませんね。

ジェフのときのオシムの外国人起用はFWに1人、MFに1人、DFに1人、各ポジションに1人なんですね。
偶然なんでしょうか?
クラブの監督のときから、日本サッカーのことを考えてくれていたような気がします。
川崎の前線の外国人による構成についても言及していましたね。
Posted by DEMOモモ at 2009年07月13日 21:42
>NARIさん
アクシデントによるスタメン変更だったため、若手のCBよりもベテランのユーティリティプレーヤーの方が良い、との判断だったかもしれません。

>州さん
森重には頑張ってもらいたいですね。

>酩酊さん
おやおや。
酒も飲まずに酔っ払ってたのかもしれませんね。

>DEMOモモさん
外国人選手を各ポジションにひとりづつ割り振るのは、割とポピュラーなので特別な目的があったのかは分かりかねます。
逆にガンバのようにFW3人などとしてくれたなら、なんらかの意図を読み取れたのでしょうが。
Posted by hume at 2009年07月14日 18:27
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